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子どもたちを魅了する絵本の秘密 ~作家・画家・編集者のコラボレーション~

  • 学生生活

1月21日(火)の「読書と豊かな心」の授業では絵本の編集者である鈴木出版取締役編集部長の波賀 稔 氏(第1期絵本専門士)が登壇し、絵本のできるまでの裏側を学びました。編集者の役割は、作家や画家とともに絵本をより魅力的に仕上げることです。企画から始まり、文章の修正やキャラクターをブラッシュアップして、さらに印刷やデザインに関わる専門家たちと調整しながら、絵本の完成までをサポートします。

波賀氏が編集に関わった絵本に『つきよのくじら』があります。子クジラが、かつて家族を守るためにシャチと戦い海の底に沈んでいった父を探して旅に出る物語です。当初、作家の原案はホエールウォッチングから着想を得たもので、主人公はザトウクジラを想定していました。一方で、画家が描いたのはクジラの姿としてよくイメージされる四角い頭のマッコウクジラでした。波賀氏はどちらにも同意せず、単独で生活するシロナガスクジラを描くように説得しました。その理由について波賀氏は、「子どもはまだ知識が十分でなく、ちゃんとクジラをイメージできません。子どもが安心して絵本の世界に入っていくにはリアリティ(≒必然性)が必要なのです」と説明しました。絵本は絵空事だと思われますが、本当にありそうだと思えるようにすることで、読者がスムーズに空想に入り込めるのです。

一方で、画家の提案を受け入れた場面もあります。子クジラが母のもとを旅立つシーンでは、母が持たせたであろう風呂敷を背負う子クジラと、涙をハンカチで拭う母クジラが描かれています。リアリティを重視する波賀氏は反対したものの、画家は「旅立ちのシーンであることを子ども達に伝えられない」と主張を貫きました。その後、この風呂敷が意外な効果を生みます。子クジラがシャチの群れに襲われるシーンでは、母が持たせてくれた風呂敷が身代わりとなって、子クジラは難を逃れます。この風呂敷は子を守る母の愛を象徴し、風呂敷を失うことで子クジラが大人になり、自立したことを表現する重要な要素となりました。風呂敷のエピソードは作家の文章にない画家オリジナルの表現です。画家が一人の読者として物語を解釈し、新たなサイドストーリーとしてとり入れたのです。

小説の挿絵には、作家の文章に忠実でない絵は描かれません。一方で絵本は作家と画家がコラボレーションすることでより広がりのあるストーリーを展開できる魅力があります。作家と画家が互いに補完し合い、高め合うことで読み手を空想の世界に導くのが絵本であるのでしょう。

保育者として子どもたちに良い絵本を選んであげるには、どのような点を見たら良いでしょうか。波賀氏は編集者が絵本をチェックするときのポイントを教えてくれました。

まず、素材が子どもたちにとって親しみやすいものであることが大切です。また、ページをめくる行為そのものが物語の展開に驚きや期待感を与える仕掛けになっているかどうかも重要です。さらに、絵本が読み手に伝えたいメッセージを明確に持っていること、そして物語の世界観にリアリティがあるかどうかが評価の基準となります。物語の構造においては、起承転結がしっかりしていることや、登場するキャラクターやモノに無駄がなく、それぞれが物語の理解を助ける役割を果たしていることが求められます。加えて、物語の始まりと終わりにおいてキャラクターの成長が描かれていることを重要視しています。登場人物が経験すれば、それに応じた成長があるべきだからです。
文章においては、簡潔で無理なく理解できることも重要で、特に耳で聞いても意味が理解できる言葉で書かれているかも大切なポイントです。絵本は何回も繰り返し読まれるのが通常です。子ども達にとって、繰り返し読む価値があるか、よく読み込んでみてください。大人の目線からも新しい発見を見つけられるかもしれません。

絵本とはなにか、グループごとに話し合って発表する。

生まれてはじめて出会うことになる本。絵によって想像を助ける本。児童とのコミュニケーションの手段となる本などの考えが発表された

本は表裏16ページが印刷された1枚の紙を折って作る。折り目を切り落とすと本になる。
実際に紙を折ってミニチュアの本を作る様子。